勘違い日記 Blog

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  • 2025.10.18

【第28回】「準備しない講演会」に引き込まれる理由

深井
野田さんはセミナーや講演会などもたくさん開催されていますよね。お話を聞くたびに聞き入ってしまうんですが、何か特別な準備をされているんですか?

野田
ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいのですが、実はあんまりセミナーの準備をしないんですよ。

深井
えっ、そうなんですか! でも先日の母校での講義など、結構長丁場なものもあるんじゃないですか?

野田
あれはだいたい3時間くらいですね。もちろんお見せするパワーポイントの資料は作ります。でも事前に話すことを細かく決めたり、原稿を用意したりすることはほとんどありません。資料を一度見直して、「よし、これでいけるな」と思ったら、あとはもう本番に臨むだけです。

深井
へぇ、すごい。私だったら頭が真っ白になったり、言葉に詰まったりするんじゃないかと不安で仕方なくなりそうです。

野田
それはもう、なくなりましたね。いざステージに立ったらどうにかなるんです。それにガチガチに準備するよりも、その場の雰囲気で臨機応変にお話できた方がライブ感があっていいかなとも思いますし。

深井
そのアドリブ力が、聴き手を惹きつける魅力になっているんでしょうね。とはいえ時間配分なども含め、かなりのスキルが必要だと思いますが……

野田
その辺の技術的な部分は、20年近くこの仕事を続ける中でいつの間にか身に付いていましたね。最初の頃はものすごく緊張しましたし、話す内容を全部書き出して練習したりもしましたけど。

深井
ああ、なるほど。やっぱりそういう地道な努力の積み重ねがあったんですね。

野田
ええ。その積み重ねのおかげで、今では「10分で話してください」と言われれば、不思議と10分で話をまとめられるようになりました。自分の中に、時間の感覚が染み付いているんだと思います。

深井
まさに職人技ですね。即興でお話しされる中で、特に聴き手の心を掴むために意識されていることはありますか?

野田
うーん……正直、僕が話している内容自体は、大したことじゃないんですよ(笑)。でも間の取り方や表情、そして一番伝えたいキーワードをどう届けるか、ということは常に意識していますね。

深井
そうなんですね! 具体的にはどういう方法があるんでしょう?

野田
例えば「皆さんは必ず死ぬんですよ」など少し強い言葉を投げかけた後、一瞬黙って間を置く。そうすると、聴いている皆さんが「うっ」と息を呑むのを感じるんです。その上で、「だからこそ、今日という一日をどう生きていくかが大事なんです」と続ける。

深井
なるほど…! 今お聞きしながらまさに引き込まれていました(笑)。そうやって心に引っかかりを作るわけですね。一つ一つのセリフが計算された演出だったとは……

野田
演出というと大袈裟ですが(笑)。僕が目指しているのは、話の全てを覚えてもらうことではなくて、聴き終えた後に何かしらの変化を感じてもらうことなんです。そのためには感情が動くことが大事で、それこそが一番心に残るものだと信じています。